2024年10月20日发(作者:叶庆雪)
秒速5センチメートル
アカリ:ねえ 秒速5センチなんだって
タカキ:えっ 何?
アカリ:桜の花の落ちるスピード 秒速5センチメートル
タカキ:ふうん アカリ そういうことよく知ってるよね
アカリ:ふふん ねえ なんだか まるで雪みたいじゃない?
タカキ:そうかなー あっ ねえ! 待ってよ!
(踏切の音)
タカキ:アカリ!
アカリ:タカキくん 來年も一緒に桜 見れるといいね!
第一回 桜花抄
(アカリからの手紙)
遠野タカキさまへ たいへんご無沙汰しております
こちらの夏も暑いけれど 東京に比べれば ずっと過ごしやすいです
でも今にして思えば私は東京のあのムシ暑い夏も好きでした
溶けてしまいそうに熱いアスファルトも 陽炎のむこうの高層ビルも
デパートや地下鉄の寒いくらいの冷房も
私たちが最後に會ったのは小學校の卒業式でしたから あれからもう半年です
ねえ タカキくん
私のこと 覚えていますか?
(アカリからの手紙)
前略 タカキくんへ
お返事ありがとう 嬉しかったです
もうすっかり秋ですね こちらは紅葉がキレイです
今年 最初のセーターをおととい私は出しました
(ドアの開く音)
(教室)
先輩:遠野くん!
タカキ:先輩
先輩:何?アブレター?
タカキ:違いますよ!
先輩:ごめんね 全部お願いしちゃって
タカキ:いえ すぐ終わりましたから
先輩:ありがとう ねぇ 転校しちゃうってホント?
タカキ:あっ はい 3學期いっぱいです
先輩:どこ?
タカキ:鹿児島です 親の都合で
先輩:そうかー 寂しくなるなぁ
(アカリからの手紙)
最近は部活で朝が早いので 今 この手紙は電車で書いています
この前 髪を切りました
耳が出るくらい短くしちゃったから
もし會っても 私って分からないかもしれませんね
(ドアの開く音)
(タカキの家)
母親:ただいまー
タカキ:おかえり
(洗濯機の駆動音)
(アカリからの手紙)
タカキくんも きっと少しずつ変わっていくのでしょうね
(アカリからの手紙)
拝啟 寒い日が続きますが お元気ですか?
こちらは もう何度か雪が降りました
私はそのたびにものすごい重裝備で學校に通っています
東京は雪は まだだよね
引越してきてからもついクセで
東京のぶんの天気予報まで見てしまいます
(運動場)
友人A:雨でも降らねえかなぁ
友人B:でも居內でもキツイぜ
タカキ:なぁ 栃木って行ったことあるか?
友人:ハァ?どこ?
タカキ:栃木
友人:ない
タカキ:どうやって行くのかな?
友人:さぁ...新幹線とか?
タカキ:遠いよな
先輩:一年!
タカキたち:ハイ!
先輩:ラスト三周!
ファイト!オーッ! ファイト!オーッ!
(アカリからの手紙)
今度はタカキくんの転校が決まったということ驚きました
お互いに昔から転校には慣れているわけですが
それにしても鹿児島だなんて
今度は ちょっと遠いよね
いざという時に
電車に乗って會いに行けるような距離では なくなってしまうのは
やっぱり...
少し...
ちょっと寂しいです
どうか どうか タカキくんが元気でいますように
(アカリからの手紙)
前略 タカキくんへ
3月4日の約束 とても嬉しいです
會うのは もう一年ぶりですね
なんだか緊張してしまいます
うちの近くに大きな桜の樹があって
春には そこでもたぶん
花びらが秒速5センチで地上に降っています
タカキくんと一緒に
春もやってきてくれればいいのにって思います
(教室)
女生徒:帰りどっか寄ってく?
男生徒:うん 雨だしな
女生徒:予報では夕方から雪になるって
男生徒:え~っ 寒いと思ったよ もう3月なのにな
女生徒:風邪引きそうだよね ねっ あったかいもの飲んでこうよ
下北で降りてさ
男生徒:そうだな
友人:遠野 部活行こうぜ
タカキ:あぁ あのさ 俺 今日ちょっと部活ダメなんだ
友人:引越しの準備か?
タカキ:そんなこと 悪いな
(アカリからの手紙)
私の駅まで來てくれるのはとても助かるのですけれど
遠いので どうか気をつけてきて下さい
約束の夜7時に駅の待合室で待っています
(発車ベル)
タカキ:アカリとの約束の當日は晝すぎから雪になった
(記憶)
アカリ:あっ ねえタカキくん!
ねこ!チョビだ!
タカキ:こいつ いつもここにいるね
アカリ:でも今日は1人みたい
ミミは どうしたの? 1人じゃ寂しいよねぇ
(走る足音)
タカキ:あの本 どう?
アカリ:なかなか 昨日一晩で40億年分読んじゃった!
タカキ:どのあたり?
アカリ:アノマロカリスが出てくるあたり
タカキ&アカリ:カンブリア紀!
アカリ:私 ハルキゲニアが好きだな こんなの
たかき:まあ 似てるかも
アカリ:タカキくんは何のファン?
タカキ:オパビニアかな
アカリ:あー 眼が5つあるヒトだよね!
(タカキ)
僕とアカリは 精神的にどこかよく似ていたと思う
僕が東京に転校してきた1年後にー
アカリが同じクラスに転校してきた
まだ體が小さく病気がちだった僕らは
グランドよりは図書館が好きで
だから僕たちはごく自然に仲良くなり
そのせいでクラスメイトから からかわれることもあったけれど
でも お互いがいれば不思議にそういうことは あまり怖くはなかった
(はやし立てる声)
僕たちは いずれ同じ中學に通い
この先もずっと一緒にだと
どうしてだとう そう思っていた
(駅)
(駅のアナウンス)
新宿 新宿 終點です お振りのお客様は...
JR線 京王線 地下鉄はお乗り換えです...
(タカキ)
新宿駅に1人で來たのは初めてで
これから乗る路線も僕にはすべて初めてだった
ハァ...
ドキドキしていた
これから 僕は アカリに會うんだ
(電車の中)
女子高校生A:この前の子 どうだった?
女子高校生B:誰?
女子高校生A:ほら 西商の!
女子高校生B:え~?趣味悪くない?
(車內アナウンス)
まもなく武蔵蒲和 武蔵蒲和に到著いったします
次の武蔵蒲和では快速列車 待ち合わせ……
快速列車 待ち合わせのためこの列車は4分ほど停車します
與野本町 大宮までお急ぎの方は向かいの...
(ためいき)
(記憶)
(電話のベル)
(電話の呼出音)
アカリ:あの...篠原と申しますけど
あの タカキくんいらっしゃいますか?
母親:アカリちゃんよ
タカキ:え...転校?
西中はどうすんだ?せっかく受かったのに
アカリ:栃木の公立に手続きするって...
ごめんね
タカキ:いや...アカリが謝ることないけで
アカリ:葛飾の叔母さんちから 通いたいって言ったんだけど
もっと大きくなってからじゃないとダメだって...
タカキ:わかった
もういいよ
もういい
アカリ:ごめん...
(タカキ)
耳が痛くなるくらい 押しあてた受話器ごしに
アカリが傷つくのが手にとるように分かった でも...
どうしようもなかった
(タカキ)
乗り換えのターミナル駅は帰宅を始めた人々で混み合っていて
誰の靴も雪の水を吸ってぐっしょり濡れていて
空気はー
雪の日の都市 獨特の匂いに満ちて冷たかった
(駅のアナウンス)
お客様にお知らせいたします
宇都宮線 小山 宇都宮方面行き列車は
ただいま雪のため 到著が8分ほど遅れております
お急ぎのところお客様には 大変ご迷惑おかけいたしますが
(タカキ)
その瞬間まで 僕は電車が遅れるなんていう可能性を考えもしなかった
不安が急に大きくなった
(車內アナウンス)
ただいまこの電車は雪のため 10分ほど遅れて運行しております
お急ぎのところ列車遅れておりますこと お詫びいたします
(タカキ)
大宮駅を過ぎてしばらくすると
風景からはあっという間に建物が少なくなった
(車內アナウンス)
次は久喜 久喜
到著が大変遅れましたこと お詫び申し上げます
東武伊勢崎線にお乗り換えの方は 5番出口におまわり下さい
後続列車が遅れているため
この列車は到駅にて10分ほど停車します
お急ぎのところ大変ご迷惑おかけいたしますが
今しばらくお待ち下さいますよう お願いいたします
タカキ:すみません
(車內アナウンス)
後続列車が遅れているため
この列車は到駅にて10分ほど停車します
お急ぎのところ大変ご迷惑を おかけいたしますが...
(電車が停車する音)
(車內アナウンス)
野木 野木
お客様にお斷りとお詫び申し上げます
後続列車遅延のため この列車は當駅でしばらくの間停車します
お急ぎのところ大変ご迷惑...
(タカキ)
駅と駅との間は信じられないくらい 離れていて
電車は一駅ごとに信じられないくらい長い間 停車した
(タカキ)
窓の外の見たこともないような雪に荒野も
じわじわと流れていく時間も 痛いような空腹も
僕をますます心細くさせていった
約束の時間を過ぎて
今頃アカリは きっと不安になり始めていると思う
あの日...あの電話の日ー
僕よりもずっと大きな不安を抱えているはずのアカリに対して
優しい言葉をかけることのできなかった自分が
ひどく 恥ずかしかった
(卒業)
アカリ:じゃあ 今日でショナラだね
(タカキ)
アカリからの最初の手紙が屆いたのはそれから半年後中1の夏だった
彼女からの文面はすべて覚えた
約束の今日まで2周間かけて
僕はアカリに渡すための手紙を書いた
アカリに伝えなければいけないこと 聞いて欲しいことが
本當に 僕にはたくさんあった
(車內アナウンス)
大変お待たせいたしました まもなく宇都宮行き発車いたします
(駅のアナウンス)
小山 小山
東北新幹線ご利用の方はお乗り換えです
東北新幹線下り盛岡方面お乗り換えの方は1番線
上り東京方面お乗り換えの方は 5番線へおまわり下さい
お客様にお知らせいたします
ただいま両毛線は雪のため 大幅な遅れをもって運転しております
お客様には大変ご迷惑をおかけいたしております
列車到著まで今しばらくお待ち下さい
(タカキ)
とにかく
アカリの待つ駅に向かうしかなかった
(駅のアナウンス)
8番線 足利.前橋方面高崎行き上り電車が參ります
白線の內側に下がって...
(電車が停車する音)
(車內アナウンス)
お客様にご案內いたします
ただいま降雪によるダイヤの亂れのため 少々停車いたします
お急ぎのところ大変 恐縮ですが
現在のところ復舊の目処は 立っておりません
繰り返します
ただいま降雪によるダイヤの亂れのため 少々停車いたします
お急ぎのところ大変 恐縮ですが
現在のところ復舊の目処は 立っておりません
(アカリからの手紙)
タカキくん お元気ですか?
部活で朝が早いので この手紙は電車で書いています
(タカキ)
手紙から想像するアカリはなぜかいつも1人だった
電車はそれから結局―
2時間も何もない荒野に停まり続けた
たった1分がものすごく長く感じられ
時間は はっきりとした悪意をもって
僕は上をゆっくりと流れていった
僕は きつく歯をくいしばり
ただとにかく 泣かないように耐えているしかなかった
アカリ...
どうか...もう...
家に...
帰っていてくれればいいのに...
(車內アナウンス)
3番線 足利.前橋方面高崎行き列車 到著いたします
この電車は雪にためしばらく停車します
(駅)
タカキ:ハァッ
ウッ...
タカキ:アカリ
(アカリのすすり泣き)
タカキ:おいしい
アカリ:そう?普通のほうじ茶だよ
タカキ:ほうじ茶?初めて飲んだ
アカリ:ウソ ぜったい 飲んだことあるよ!
タカキ:そうかな?
アカリ:そうだよ!
それからこれ...私が作ったから味の保證はないんだけど
よかったら食べて
タカキ:ありがとう
お腹すいてたんだ すごく
アカリ:どうかな?
タカキ:今まで食べたものの中で一番おいしい
アカリ:大袈裟だなぁ
タカキ:ホントだよ
アカリ:きっとお腹がすいてたからよ
タカキ:そうかな
アカリ:そうよ
私も食べよっと
引越し もうすぐだよね
タカキ:うん 來周
アカリ:鹿児島かぁ
タカキ:遠いんだ
アカリ:うん
タカキ:栃木も遠かったけどね
アカリ:ふふ 帰れなくなっちゃったもんね
駅員:そろそろ閉めますよ もう電車もないですし
タカキ:ハイ
駅員:こんな雪ですから お気をつけて
タカキ&アカリ:ハイ!
(外)
アカリ:見える?あの樹
タカキ:手紙の樹?
アカリ:うん 桜の樹
アカリ:ねえ
まるで...雪みたいじゃない?
タカキ:そうだね
(タカキ)
その瞬間―
永遠とか心とか魂とかいうものが どこにあるのか
分かった気がした
13年間 生きてきたことの全てを 分かちあえたように僕は思い
それから 次の瞬間―
たまらなく...
悲しくなった
アカリのその溫もりを その魂を
どのように扱えばいいのか どこに持っていけばいいのか
それが僕には分からなかったからだ
僕たちはこの先も ずっと一緒にいることはできないと
はっきりと分かった
僕たちの前には いまだ巨大すぎる人生が
茫漠とした時間がどうしようもなく 橫たわっていた
でも―
僕を捉えたその不安は やがてゆるやかに溶けていき
あとにはアカリの 柔らかな唇だけが殘っていた
その夜―
僕たちは畑の脇にあった 小さな納屋で過ごした
古い毛布にくるまり 長い時間話し続けて
いつの間にか眠っていた
朝 動き始めた電車に乗って
僕はアカリと別れた
アカリ:あの...
タカキくん...
タカキ:ん...?
アカリ:タカキくんは...
きっとこの先も大丈夫だと思う ぜったい!
タカキ:ありがとう
アカリも元気で!
手紙書くよ!電話も!
(赤ゲラの銳く清廉な一声)
(タカキ)
アカリへの手紙をなくしてしまったことを
僕はアカリに言わなかった
あのキスの前と後とでは
世界の何もかもが 変わってしまったような気がしたからだ
彼女を守れるだけの力が欲しいと強く思った
それだけを考えながら僕はいつまでも
窓の外の景色を見続けていた
第一回 終
第二回 コスモナウト
(道)
姉:カナエ 放課後も行くの?
カナエ:うん お姉ちゃんは平気?
姉:いいよ でも勉強もちゃんとやんなさいよ
カナエ:はーい
姉:ふう...よし
(學校)
(バイクの停車音)
カナエ:ふう… よし
タカキ:おはよう
カナエ:おはよう 遠野くん 今朝も早いね
タカキ:澄田も 海 行ってきたんだろ?
カナエ:うん
タカキ:頑張るんだね
カナエ:えっ そんなにでも...へへへ
またね!遠野くん
タカキ:ああ
(教室)
先生:いいかぁ? そろそろ決める時期だぞ
月曜までに提出だからな
ご家族とよく相談して書いてくるように
友人A:佐々木さん 東京の大學行くみたいよ
友人B:さすが 私の熊本の短大かな~
友人A:カナエは?
カナエ:え?うーん...
友人B:就職だっけ?
カナエ:うーん...
友人A:あんたホンと何も考えてないよね
友人B:遠野くんのことだけね
友人A:あいつゼッタイ 東京に彼女いるよ
カナエ:そんなぁ!
友人たち:うっふふふ
(チャイウの音)
(海)
カナエ:あっ
姉:まだ上手くいかない?
カナエ:うん どうしちゃったのかな...
姉:あんまり 悩まない方がいいよそのうちまた乗れるわよ
カナエ:お姉ちゃんは気楽でいいわよ
姉:なに 焦ってんのよ
カナエ:このままじゃ卒業まで言えないじゃない
(學校)
カナエ:ありがと お姉ちゃん
姉:送ってくわよ
カナエ:ううん カブで帰る!
タカキ:あっ 澄田 今帰り?
カナエ:うん 遠野くんも?
タカキ:ああ...
一緒に帰らない?
(カナエ)
もし私に犬みたいな尻尾があったら
もっと嬉しさを隠しきれずにぶんぶんと振ってしまったと思う
ああ 私は犬じゃなくて良かったな~なんてホッとしながら思って
そういうことに我ながらバカだなぁと呆れて
それでも
遠野くんとの帰り道は幸せだった
(記憶)
(カナエ)
最初から遠野くんは他の男の子たちとはどこか少し違っていた
タカキ:遠野貴樹です
親の仕事で転校には慣れていますがこの島にはまだ慣れていません
よろしくお願いします
(カナエ)
中2のその日のうちに好きになって彼と同じ高校に行きたくて
ものすごく勉強をがんばってなんてか合格して
それでもまだ遠野くんの姿を見るたびに もっと好きになっていってしまって
それが怖くて 毎日が苦しくて
でも會えるたびに幸せで
自分でもどうしようもなかった
(店)
カナエ:遠野くん また 同じの
タカキ:ふふ これウマいんだよ
澄田は なんかいつも真剣だよね ものすごく
カナエ:うん!
タカキ:先行ってるよ
カナエ:うん...
カナエ:これ下さい
店員:90円ね
カナエ:ハイ
店員:いつも ありがとね
カナエ:ハッ!
タカキ:お帰り 何買ったの?
カナエ:うん 迷ったんだけど...
(カナエ)
遠野くんは時々 誰かにメールを打っていて
そのたびに私は それが 私あてのメールだったらいいのにって
どうしても いつも 思ってしまう
(カナエの家)
犬:ワン!
ワンワン!ワン!
カナエ:カブ!ただいまー!
カブカブ 帰ってきたよ!
ワフッ
(町內放送)
町役場からお知らせします 次回の當番スタンドは阪井の農協給油...
(學校)
(校內放送)
3年1組の澄田花苗さん
伊藤先生がお呼びです 生徒指導室まで來て下さい
友人:遠野の彼女じゃん
タカキ:彼女とかじゃないよ
(生徒指導室)
伊藤先生:學年で出してないのは澄田だけだぞ
カナエ:すみません...
伊藤先生:あのなぁ こう言っちゃ何だが そんなに悩むようなことじゃないんだよ
澄田先生は何て言ってるんだ?
カナエ:いえ...
ふうっ...
伊藤先生:どうしても決められないなら 県內の短大とかはどうなんだ?
カナエ:でも...
(カナエ)
お姉ちゃんは関系ないのに...
(海)
(カナエ)
だって...
お姉ちゃんにねだって はじめたサーフィンも
一番大切だと思う あの人のことも
私はまだ 全然...
(店)
店員:いつもありがとね
カナエ:いえ それじゃあまた
(帰る道)
カナエ:ハァ ハァ ハァ
(カナエ)
遠野くんがいる場所にくると
胸の奧が...少し苦しくなる
カナエ:遠野くん!
タカキ:澄田?どうしたの よく分かったね
カナエ:へへへ 遠野くんの単車があったから 來ちゃった いい?
タカキ:うん そっか 嬉しいよ
今日は単車置き場で會えなかったからさ
カナエ:私も!
(カナエ)
彼は優しい
時々 泣いてしまいそうになる
カナエ:ねえ 遠野くんは受験?
タカキ:うん 東京の大學受ける
カナエ:東京...そっか そうだと思ったんだ
タカキ:どうして?
カナエ:遠くに行きたそうだもの なんとなく
タカキ:澄田は?
カナエ:う~ん...
私 明日のこともよく分からないのよね
タカキ:だぶん 誰だってそうだよ
カナエ:ワン!遠野くんも?
タカキ:もちろん
カナエ:ぜんぜん 迷いなんてないみたいに見える
タカキ:まさか 迷ってばかりなんだ 俺
出來ることをなんとかやってるだけ 餘裕ないんだ
カナエ:そっか...
そうなんだ
タカキ:飛行機?
カナエ:うん
(道)
(ディーゼルエンジンも大きな音)
タカキ:すごい
カナエ:時速5キロなんだって
タカキ:えっ?
カナエ:南種子の打ち上げ場まで
タカキ:ああ...
カナエ:今年は久しぶりに打ち上げるんだよね
タカキ:ああ 太陽系のずっと奧まで 行くんだって
何年もかけて
(カナエの家)
母親:あなた カナエの進路 ちゃんと相談に乗ってやんなさいよ
ぼんやりした子なんだから
姉:大丈夫よ あの子も もう子供じゃないんだし
私も昔は ああだったなぁ...
カナエ:ねえ カブ 遠野くんも分からないんだって
一緒なんだ...遠野くんも
(タカキの家)
(タカキ)
それは本當に...
想像を絕するくらい 孤獨な旅であるはずだ
本當の暗閣の中をただひたむきに
1つの水素原子にさえ滅多に出會うことなく
ただただ 深淵にあるはずと信じる 世界の秘密に近づきたいー心で
僕たちは そうやって どこまで行くのだろう
どこまで行けるのだろう
(タカキ)
出すあてのないメールを打つクセがついたのは いつからだろう
(海)
姉:カナエ あんた 進路決めたの?
カナエ:ううん やっぱりまだ分かんないけど でもいいの決めたの!
1つずつ出來ることからやるの行ってくる!
(カナエ)
あの日から いくつかの颱風が通りすぎ
そのたびに島は少しずつす ずしくなっていった
サトウキビを揺らす風が かすかに冷気を孕み
空がほんの少し高くなり
雲の輪郭が優しくなって
カブに乗る同級生たちが 薄いシャンパーを羽織るようになった
私が半年ぶりに波の上に立てたのは
また夏がかろうじてのるそんな10月の半ばだった
(町內放送)
本日夕方からの天候は晴れ 最大風速は8mの予報となっています
(教室)
友人A:佐々木さん 山田から告白されたらしいよ
友人B:さすがだなー
あれ?カナエ なんか今日嬉しそうね
友人A:遠野くんとなんかあったの?
カナエ:ふふん
友人たち:噓!
(カナエ)
私だって今日こそ...
遠野くんに告白するんだ
波に乗れた今日言わなければ
この先の きっと...ずっと言えない
タカキ:澄田!
カナエ:と...
遠野くん...
タカキ:今帰り?
カナエ:うん
タカキ:そうか
じゃあ 一緒に帰ろうよ
(店)
タカキ:あれ 澄田 今日はもう決まり?
カナエ:うん
(道)
カナエ:あっ
タカキ:ん?
どうしたの?
カナエ:…しくしないで
タカキ:え?
カナエ:ううん ごめん...何でもないの
タカキ:調子悪い?
カナエ:うん ヘンだなぁ
ダメ?
タカキ:うん...プラグの寿命なんじゃないのかなこれお下がり?
カナエ:うん お姉ちゃんの
タカキ:加速で息継ぎしてなかった?
カナエ:してたかも
タカキ:今日はここに置かせてもらって 後で家の人に取りにきてもらいなよ
今日は歩こう
カナエ:えっ 私一人で歩くよ! 遠野くんは先帰って
タカキ:ここまできれば近いから
それにちょっと...歩きたいんだ
(ヒグラシの鳴き声)
カナエ:遠野くん...
お願い...
タカキ:どうしたの!?
カナエ:ごめん なんでもないの
ごめんね...
タカキ:澄田...
(カナエ)
お願いだから...もう...
やさしくしないで....!
(カナエ)
必死に ただ閣雲に空に手を伸ばして
あんなに大きなカタマリを打ち上げて
気の遠くなるくらい むこうにある何か見つめて
遠野くんが他の人と 違って見える理由が
少しだけ分かった気がした
そして 同時に
遠野くんは私を見てなんて いないんだということに
私はハッキリと気づいた
だからその日 私の遠野くんに 何も言えなかった
遠野くんは優しいけれど
とても優しいけれど
でもー
遠野くんはいつも
私のずっとむこう... もっとずっと遠くの何かを見ている
私が遠野くんに望むことは きっと葉わない
それでも...
それでも私は遠野くんのことを
きっと明日も明後日もその先も
やっぱりどうしようもなく好きなんだと思う
遠野くんのことだけを想いながら
泣きながら 私は眼った
第二回 コスモナウト 終
第三回
(タカキ)
今 振り返れば
きっとあの人振り返ると強く感じた
(駅のアナウンス)
中央.総武最終電車 東京行きが到著します
アカリの母親:お正月でいればいいのに
アカリ:うん...でも色々準備もあるから
アカリの父親:そうだな 彼にもうまいもの作ってやれよ
アカリ:うん
アカリの母親:何かあったら電話するのよ アカリ
アカリ:大丈夫よ 來月には式で會うんだから そんなに心配しないで
寒いからもう戻りなよ
(アカリ)
ゆうべ 昔の夢を見た
私も彼も まだ子供だった
きっと 昨日見つけた手紙のせいだ
(會社)
上司:水野さん
水野:あ はい
上司:ミーテイングいいかな?
水野:はい
(タカキ)
ただ 生活をしているだけで 哀しみはそこここに積もる
日に幹したシーツにも 洗面所の歯ブラシにも
攜帯電話の履歴にも
(鍵が落ちる音)
(タカキ)
「あなたのことは今でも好きです」と
三年間付き合った女性はそうメールに書いていた
「でも私たちはきっと1000回もメールをやりとりして
多分 心は1センチくらいしか 近づけませんでした」 と
この數年間 とにかく前に進みたくて
屆かないものに手を觸れたくてそれが具體的に何を指すのかも
ほとんと脅迫的とも言えるようなその想いが
どこから湧いてくるのかも分からずに 僕はただ働き続け
気づけば日々弾力を失っていく心がひたすら辛かった
そしてある朝
かつてあれほどまでに真剣で切実だった思いが
綺麗に失われてることに僕は気づき
もう限界だと知ったとき
會社を辭めた
(タカキ)
昨日 夢を見た
(アカリ)
ずっと昔の夢
(タカキ)
その夢の中では 僕たちはまだ13歳で
(アカリ)
そこは 一面の雪に覆われた広い田園で
(タカキ)
人家の燈りは ずっと遠くにまばらに見えるだけで
(アカリ)
振り積もる新雪には 私たちの歩いてきた足跡しかなかった
そうやって
(タカキ)
いつかまた一緒に桜を見ることが出來ると
(アカリ)
私も彼も なんの迷いもなく
(タカキ)
そう 思っていた
終
2024年10月20日发(作者:叶庆雪)
秒速5センチメートル
アカリ:ねえ 秒速5センチなんだって
タカキ:えっ 何?
アカリ:桜の花の落ちるスピード 秒速5センチメートル
タカキ:ふうん アカリ そういうことよく知ってるよね
アカリ:ふふん ねえ なんだか まるで雪みたいじゃない?
タカキ:そうかなー あっ ねえ! 待ってよ!
(踏切の音)
タカキ:アカリ!
アカリ:タカキくん 來年も一緒に桜 見れるといいね!
第一回 桜花抄
(アカリからの手紙)
遠野タカキさまへ たいへんご無沙汰しております
こちらの夏も暑いけれど 東京に比べれば ずっと過ごしやすいです
でも今にして思えば私は東京のあのムシ暑い夏も好きでした
溶けてしまいそうに熱いアスファルトも 陽炎のむこうの高層ビルも
デパートや地下鉄の寒いくらいの冷房も
私たちが最後に會ったのは小學校の卒業式でしたから あれからもう半年です
ねえ タカキくん
私のこと 覚えていますか?
(アカリからの手紙)
前略 タカキくんへ
お返事ありがとう 嬉しかったです
もうすっかり秋ですね こちらは紅葉がキレイです
今年 最初のセーターをおととい私は出しました
(ドアの開く音)
(教室)
先輩:遠野くん!
タカキ:先輩
先輩:何?アブレター?
タカキ:違いますよ!
先輩:ごめんね 全部お願いしちゃって
タカキ:いえ すぐ終わりましたから
先輩:ありがとう ねぇ 転校しちゃうってホント?
タカキ:あっ はい 3學期いっぱいです
先輩:どこ?
タカキ:鹿児島です 親の都合で
先輩:そうかー 寂しくなるなぁ
(アカリからの手紙)
最近は部活で朝が早いので 今 この手紙は電車で書いています
この前 髪を切りました
耳が出るくらい短くしちゃったから
もし會っても 私って分からないかもしれませんね
(ドアの開く音)
(タカキの家)
母親:ただいまー
タカキ:おかえり
(洗濯機の駆動音)
(アカリからの手紙)
タカキくんも きっと少しずつ変わっていくのでしょうね
(アカリからの手紙)
拝啟 寒い日が続きますが お元気ですか?
こちらは もう何度か雪が降りました
私はそのたびにものすごい重裝備で學校に通っています
東京は雪は まだだよね
引越してきてからもついクセで
東京のぶんの天気予報まで見てしまいます
(運動場)
友人A:雨でも降らねえかなぁ
友人B:でも居內でもキツイぜ
タカキ:なぁ 栃木って行ったことあるか?
友人:ハァ?どこ?
タカキ:栃木
友人:ない
タカキ:どうやって行くのかな?
友人:さぁ...新幹線とか?
タカキ:遠いよな
先輩:一年!
タカキたち:ハイ!
先輩:ラスト三周!
ファイト!オーッ! ファイト!オーッ!
(アカリからの手紙)
今度はタカキくんの転校が決まったということ驚きました
お互いに昔から転校には慣れているわけですが
それにしても鹿児島だなんて
今度は ちょっと遠いよね
いざという時に
電車に乗って會いに行けるような距離では なくなってしまうのは
やっぱり...
少し...
ちょっと寂しいです
どうか どうか タカキくんが元気でいますように
(アカリからの手紙)
前略 タカキくんへ
3月4日の約束 とても嬉しいです
會うのは もう一年ぶりですね
なんだか緊張してしまいます
うちの近くに大きな桜の樹があって
春には そこでもたぶん
花びらが秒速5センチで地上に降っています
タカキくんと一緒に
春もやってきてくれればいいのにって思います
(教室)
女生徒:帰りどっか寄ってく?
男生徒:うん 雨だしな
女生徒:予報では夕方から雪になるって
男生徒:え~っ 寒いと思ったよ もう3月なのにな
女生徒:風邪引きそうだよね ねっ あったかいもの飲んでこうよ
下北で降りてさ
男生徒:そうだな
友人:遠野 部活行こうぜ
タカキ:あぁ あのさ 俺 今日ちょっと部活ダメなんだ
友人:引越しの準備か?
タカキ:そんなこと 悪いな
(アカリからの手紙)
私の駅まで來てくれるのはとても助かるのですけれど
遠いので どうか気をつけてきて下さい
約束の夜7時に駅の待合室で待っています
(発車ベル)
タカキ:アカリとの約束の當日は晝すぎから雪になった
(記憶)
アカリ:あっ ねえタカキくん!
ねこ!チョビだ!
タカキ:こいつ いつもここにいるね
アカリ:でも今日は1人みたい
ミミは どうしたの? 1人じゃ寂しいよねぇ
(走る足音)
タカキ:あの本 どう?
アカリ:なかなか 昨日一晩で40億年分読んじゃった!
タカキ:どのあたり?
アカリ:アノマロカリスが出てくるあたり
タカキ&アカリ:カンブリア紀!
アカリ:私 ハルキゲニアが好きだな こんなの
たかき:まあ 似てるかも
アカリ:タカキくんは何のファン?
タカキ:オパビニアかな
アカリ:あー 眼が5つあるヒトだよね!
(タカキ)
僕とアカリは 精神的にどこかよく似ていたと思う
僕が東京に転校してきた1年後にー
アカリが同じクラスに転校してきた
まだ體が小さく病気がちだった僕らは
グランドよりは図書館が好きで
だから僕たちはごく自然に仲良くなり
そのせいでクラスメイトから からかわれることもあったけれど
でも お互いがいれば不思議にそういうことは あまり怖くはなかった
(はやし立てる声)
僕たちは いずれ同じ中學に通い
この先もずっと一緒にだと
どうしてだとう そう思っていた
(駅)
(駅のアナウンス)
新宿 新宿 終點です お振りのお客様は...
JR線 京王線 地下鉄はお乗り換えです...
(タカキ)
新宿駅に1人で來たのは初めてで
これから乗る路線も僕にはすべて初めてだった
ハァ...
ドキドキしていた
これから 僕は アカリに會うんだ
(電車の中)
女子高校生A:この前の子 どうだった?
女子高校生B:誰?
女子高校生A:ほら 西商の!
女子高校生B:え~?趣味悪くない?
(車內アナウンス)
まもなく武蔵蒲和 武蔵蒲和に到著いったします
次の武蔵蒲和では快速列車 待ち合わせ……
快速列車 待ち合わせのためこの列車は4分ほど停車します
與野本町 大宮までお急ぎの方は向かいの...
(ためいき)
(記憶)
(電話のベル)
(電話の呼出音)
アカリ:あの...篠原と申しますけど
あの タカキくんいらっしゃいますか?
母親:アカリちゃんよ
タカキ:え...転校?
西中はどうすんだ?せっかく受かったのに
アカリ:栃木の公立に手続きするって...
ごめんね
タカキ:いや...アカリが謝ることないけで
アカリ:葛飾の叔母さんちから 通いたいって言ったんだけど
もっと大きくなってからじゃないとダメだって...
タカキ:わかった
もういいよ
もういい
アカリ:ごめん...
(タカキ)
耳が痛くなるくらい 押しあてた受話器ごしに
アカリが傷つくのが手にとるように分かった でも...
どうしようもなかった
(タカキ)
乗り換えのターミナル駅は帰宅を始めた人々で混み合っていて
誰の靴も雪の水を吸ってぐっしょり濡れていて
空気はー
雪の日の都市 獨特の匂いに満ちて冷たかった
(駅のアナウンス)
お客様にお知らせいたします
宇都宮線 小山 宇都宮方面行き列車は
ただいま雪のため 到著が8分ほど遅れております
お急ぎのところお客様には 大変ご迷惑おかけいたしますが
(タカキ)
その瞬間まで 僕は電車が遅れるなんていう可能性を考えもしなかった
不安が急に大きくなった
(車內アナウンス)
ただいまこの電車は雪のため 10分ほど遅れて運行しております
お急ぎのところ列車遅れておりますこと お詫びいたします
(タカキ)
大宮駅を過ぎてしばらくすると
風景からはあっという間に建物が少なくなった
(車內アナウンス)
次は久喜 久喜
到著が大変遅れましたこと お詫び申し上げます
東武伊勢崎線にお乗り換えの方は 5番出口におまわり下さい
後続列車が遅れているため
この列車は到駅にて10分ほど停車します
お急ぎのところ大変ご迷惑おかけいたしますが
今しばらくお待ち下さいますよう お願いいたします
タカキ:すみません
(車內アナウンス)
後続列車が遅れているため
この列車は到駅にて10分ほど停車します
お急ぎのところ大変ご迷惑を おかけいたしますが...
(電車が停車する音)
(車內アナウンス)
野木 野木
お客様にお斷りとお詫び申し上げます
後続列車遅延のため この列車は當駅でしばらくの間停車します
お急ぎのところ大変ご迷惑...
(タカキ)
駅と駅との間は信じられないくらい 離れていて
電車は一駅ごとに信じられないくらい長い間 停車した
(タカキ)
窓の外の見たこともないような雪に荒野も
じわじわと流れていく時間も 痛いような空腹も
僕をますます心細くさせていった
約束の時間を過ぎて
今頃アカリは きっと不安になり始めていると思う
あの日...あの電話の日ー
僕よりもずっと大きな不安を抱えているはずのアカリに対して
優しい言葉をかけることのできなかった自分が
ひどく 恥ずかしかった
(卒業)
アカリ:じゃあ 今日でショナラだね
(タカキ)
アカリからの最初の手紙が屆いたのはそれから半年後中1の夏だった
彼女からの文面はすべて覚えた
約束の今日まで2周間かけて
僕はアカリに渡すための手紙を書いた
アカリに伝えなければいけないこと 聞いて欲しいことが
本當に 僕にはたくさんあった
(車內アナウンス)
大変お待たせいたしました まもなく宇都宮行き発車いたします
(駅のアナウンス)
小山 小山
東北新幹線ご利用の方はお乗り換えです
東北新幹線下り盛岡方面お乗り換えの方は1番線
上り東京方面お乗り換えの方は 5番線へおまわり下さい
お客様にお知らせいたします
ただいま両毛線は雪のため 大幅な遅れをもって運転しております
お客様には大変ご迷惑をおかけいたしております
列車到著まで今しばらくお待ち下さい
(タカキ)
とにかく
アカリの待つ駅に向かうしかなかった
(駅のアナウンス)
8番線 足利.前橋方面高崎行き上り電車が參ります
白線の內側に下がって...
(電車が停車する音)
(車內アナウンス)
お客様にご案內いたします
ただいま降雪によるダイヤの亂れのため 少々停車いたします
お急ぎのところ大変 恐縮ですが
現在のところ復舊の目処は 立っておりません
繰り返します
ただいま降雪によるダイヤの亂れのため 少々停車いたします
お急ぎのところ大変 恐縮ですが
現在のところ復舊の目処は 立っておりません
(アカリからの手紙)
タカキくん お元気ですか?
部活で朝が早いので この手紙は電車で書いています
(タカキ)
手紙から想像するアカリはなぜかいつも1人だった
電車はそれから結局―
2時間も何もない荒野に停まり続けた
たった1分がものすごく長く感じられ
時間は はっきりとした悪意をもって
僕は上をゆっくりと流れていった
僕は きつく歯をくいしばり
ただとにかく 泣かないように耐えているしかなかった
アカリ...
どうか...もう...
家に...
帰っていてくれればいいのに...
(車內アナウンス)
3番線 足利.前橋方面高崎行き列車 到著いたします
この電車は雪にためしばらく停車します
(駅)
タカキ:ハァッ
ウッ...
タカキ:アカリ
(アカリのすすり泣き)
タカキ:おいしい
アカリ:そう?普通のほうじ茶だよ
タカキ:ほうじ茶?初めて飲んだ
アカリ:ウソ ぜったい 飲んだことあるよ!
タカキ:そうかな?
アカリ:そうだよ!
それからこれ...私が作ったから味の保證はないんだけど
よかったら食べて
タカキ:ありがとう
お腹すいてたんだ すごく
アカリ:どうかな?
タカキ:今まで食べたものの中で一番おいしい
アカリ:大袈裟だなぁ
タカキ:ホントだよ
アカリ:きっとお腹がすいてたからよ
タカキ:そうかな
アカリ:そうよ
私も食べよっと
引越し もうすぐだよね
タカキ:うん 來周
アカリ:鹿児島かぁ
タカキ:遠いんだ
アカリ:うん
タカキ:栃木も遠かったけどね
アカリ:ふふ 帰れなくなっちゃったもんね
駅員:そろそろ閉めますよ もう電車もないですし
タカキ:ハイ
駅員:こんな雪ですから お気をつけて
タカキ&アカリ:ハイ!
(外)
アカリ:見える?あの樹
タカキ:手紙の樹?
アカリ:うん 桜の樹
アカリ:ねえ
まるで...雪みたいじゃない?
タカキ:そうだね
(タカキ)
その瞬間―
永遠とか心とか魂とかいうものが どこにあるのか
分かった気がした
13年間 生きてきたことの全てを 分かちあえたように僕は思い
それから 次の瞬間―
たまらなく...
悲しくなった
アカリのその溫もりを その魂を
どのように扱えばいいのか どこに持っていけばいいのか
それが僕には分からなかったからだ
僕たちはこの先も ずっと一緒にいることはできないと
はっきりと分かった
僕たちの前には いまだ巨大すぎる人生が
茫漠とした時間がどうしようもなく 橫たわっていた
でも―
僕を捉えたその不安は やがてゆるやかに溶けていき
あとにはアカリの 柔らかな唇だけが殘っていた
その夜―
僕たちは畑の脇にあった 小さな納屋で過ごした
古い毛布にくるまり 長い時間話し続けて
いつの間にか眠っていた
朝 動き始めた電車に乗って
僕はアカリと別れた
アカリ:あの...
タカキくん...
タカキ:ん...?
アカリ:タカキくんは...
きっとこの先も大丈夫だと思う ぜったい!
タカキ:ありがとう
アカリも元気で!
手紙書くよ!電話も!
(赤ゲラの銳く清廉な一声)
(タカキ)
アカリへの手紙をなくしてしまったことを
僕はアカリに言わなかった
あのキスの前と後とでは
世界の何もかもが 変わってしまったような気がしたからだ
彼女を守れるだけの力が欲しいと強く思った
それだけを考えながら僕はいつまでも
窓の外の景色を見続けていた
第一回 終
第二回 コスモナウト
(道)
姉:カナエ 放課後も行くの?
カナエ:うん お姉ちゃんは平気?
姉:いいよ でも勉強もちゃんとやんなさいよ
カナエ:はーい
姉:ふう...よし
(學校)
(バイクの停車音)
カナエ:ふう… よし
タカキ:おはよう
カナエ:おはよう 遠野くん 今朝も早いね
タカキ:澄田も 海 行ってきたんだろ?
カナエ:うん
タカキ:頑張るんだね
カナエ:えっ そんなにでも...へへへ
またね!遠野くん
タカキ:ああ
(教室)
先生:いいかぁ? そろそろ決める時期だぞ
月曜までに提出だからな
ご家族とよく相談して書いてくるように
友人A:佐々木さん 東京の大學行くみたいよ
友人B:さすが 私の熊本の短大かな~
友人A:カナエは?
カナエ:え?うーん...
友人B:就職だっけ?
カナエ:うーん...
友人A:あんたホンと何も考えてないよね
友人B:遠野くんのことだけね
友人A:あいつゼッタイ 東京に彼女いるよ
カナエ:そんなぁ!
友人たち:うっふふふ
(チャイウの音)
(海)
カナエ:あっ
姉:まだ上手くいかない?
カナエ:うん どうしちゃったのかな...
姉:あんまり 悩まない方がいいよそのうちまた乗れるわよ
カナエ:お姉ちゃんは気楽でいいわよ
姉:なに 焦ってんのよ
カナエ:このままじゃ卒業まで言えないじゃない
(學校)
カナエ:ありがと お姉ちゃん
姉:送ってくわよ
カナエ:ううん カブで帰る!
タカキ:あっ 澄田 今帰り?
カナエ:うん 遠野くんも?
タカキ:ああ...
一緒に帰らない?
(カナエ)
もし私に犬みたいな尻尾があったら
もっと嬉しさを隠しきれずにぶんぶんと振ってしまったと思う
ああ 私は犬じゃなくて良かったな~なんてホッとしながら思って
そういうことに我ながらバカだなぁと呆れて
それでも
遠野くんとの帰り道は幸せだった
(記憶)
(カナエ)
最初から遠野くんは他の男の子たちとはどこか少し違っていた
タカキ:遠野貴樹です
親の仕事で転校には慣れていますがこの島にはまだ慣れていません
よろしくお願いします
(カナエ)
中2のその日のうちに好きになって彼と同じ高校に行きたくて
ものすごく勉強をがんばってなんてか合格して
それでもまだ遠野くんの姿を見るたびに もっと好きになっていってしまって
それが怖くて 毎日が苦しくて
でも會えるたびに幸せで
自分でもどうしようもなかった
(店)
カナエ:遠野くん また 同じの
タカキ:ふふ これウマいんだよ
澄田は なんかいつも真剣だよね ものすごく
カナエ:うん!
タカキ:先行ってるよ
カナエ:うん...
カナエ:これ下さい
店員:90円ね
カナエ:ハイ
店員:いつも ありがとね
カナエ:ハッ!
タカキ:お帰り 何買ったの?
カナエ:うん 迷ったんだけど...
(カナエ)
遠野くんは時々 誰かにメールを打っていて
そのたびに私は それが 私あてのメールだったらいいのにって
どうしても いつも 思ってしまう
(カナエの家)
犬:ワン!
ワンワン!ワン!
カナエ:カブ!ただいまー!
カブカブ 帰ってきたよ!
ワフッ
(町內放送)
町役場からお知らせします 次回の當番スタンドは阪井の農協給油...
(學校)
(校內放送)
3年1組の澄田花苗さん
伊藤先生がお呼びです 生徒指導室まで來て下さい
友人:遠野の彼女じゃん
タカキ:彼女とかじゃないよ
(生徒指導室)
伊藤先生:學年で出してないのは澄田だけだぞ
カナエ:すみません...
伊藤先生:あのなぁ こう言っちゃ何だが そんなに悩むようなことじゃないんだよ
澄田先生は何て言ってるんだ?
カナエ:いえ...
ふうっ...
伊藤先生:どうしても決められないなら 県內の短大とかはどうなんだ?
カナエ:でも...
(カナエ)
お姉ちゃんは関系ないのに...
(海)
(カナエ)
だって...
お姉ちゃんにねだって はじめたサーフィンも
一番大切だと思う あの人のことも
私はまだ 全然...
(店)
店員:いつもありがとね
カナエ:いえ それじゃあまた
(帰る道)
カナエ:ハァ ハァ ハァ
(カナエ)
遠野くんがいる場所にくると
胸の奧が...少し苦しくなる
カナエ:遠野くん!
タカキ:澄田?どうしたの よく分かったね
カナエ:へへへ 遠野くんの単車があったから 來ちゃった いい?
タカキ:うん そっか 嬉しいよ
今日は単車置き場で會えなかったからさ
カナエ:私も!
(カナエ)
彼は優しい
時々 泣いてしまいそうになる
カナエ:ねえ 遠野くんは受験?
タカキ:うん 東京の大學受ける
カナエ:東京...そっか そうだと思ったんだ
タカキ:どうして?
カナエ:遠くに行きたそうだもの なんとなく
タカキ:澄田は?
カナエ:う~ん...
私 明日のこともよく分からないのよね
タカキ:だぶん 誰だってそうだよ
カナエ:ワン!遠野くんも?
タカキ:もちろん
カナエ:ぜんぜん 迷いなんてないみたいに見える
タカキ:まさか 迷ってばかりなんだ 俺
出來ることをなんとかやってるだけ 餘裕ないんだ
カナエ:そっか...
そうなんだ
タカキ:飛行機?
カナエ:うん
(道)
(ディーゼルエンジンも大きな音)
タカキ:すごい
カナエ:時速5キロなんだって
タカキ:えっ?
カナエ:南種子の打ち上げ場まで
タカキ:ああ...
カナエ:今年は久しぶりに打ち上げるんだよね
タカキ:ああ 太陽系のずっと奧まで 行くんだって
何年もかけて
(カナエの家)
母親:あなた カナエの進路 ちゃんと相談に乗ってやんなさいよ
ぼんやりした子なんだから
姉:大丈夫よ あの子も もう子供じゃないんだし
私も昔は ああだったなぁ...
カナエ:ねえ カブ 遠野くんも分からないんだって
一緒なんだ...遠野くんも
(タカキの家)
(タカキ)
それは本當に...
想像を絕するくらい 孤獨な旅であるはずだ
本當の暗閣の中をただひたむきに
1つの水素原子にさえ滅多に出會うことなく
ただただ 深淵にあるはずと信じる 世界の秘密に近づきたいー心で
僕たちは そうやって どこまで行くのだろう
どこまで行けるのだろう
(タカキ)
出すあてのないメールを打つクセがついたのは いつからだろう
(海)
姉:カナエ あんた 進路決めたの?
カナエ:ううん やっぱりまだ分かんないけど でもいいの決めたの!
1つずつ出來ることからやるの行ってくる!
(カナエ)
あの日から いくつかの颱風が通りすぎ
そのたびに島は少しずつす ずしくなっていった
サトウキビを揺らす風が かすかに冷気を孕み
空がほんの少し高くなり
雲の輪郭が優しくなって
カブに乗る同級生たちが 薄いシャンパーを羽織るようになった
私が半年ぶりに波の上に立てたのは
また夏がかろうじてのるそんな10月の半ばだった
(町內放送)
本日夕方からの天候は晴れ 最大風速は8mの予報となっています
(教室)
友人A:佐々木さん 山田から告白されたらしいよ
友人B:さすがだなー
あれ?カナエ なんか今日嬉しそうね
友人A:遠野くんとなんかあったの?
カナエ:ふふん
友人たち:噓!
(カナエ)
私だって今日こそ...
遠野くんに告白するんだ
波に乗れた今日言わなければ
この先の きっと...ずっと言えない
タカキ:澄田!
カナエ:と...
遠野くん...
タカキ:今帰り?
カナエ:うん
タカキ:そうか
じゃあ 一緒に帰ろうよ
(店)
タカキ:あれ 澄田 今日はもう決まり?
カナエ:うん
(道)
カナエ:あっ
タカキ:ん?
どうしたの?
カナエ:…しくしないで
タカキ:え?
カナエ:ううん ごめん...何でもないの
タカキ:調子悪い?
カナエ:うん ヘンだなぁ
ダメ?
タカキ:うん...プラグの寿命なんじゃないのかなこれお下がり?
カナエ:うん お姉ちゃんの
タカキ:加速で息継ぎしてなかった?
カナエ:してたかも
タカキ:今日はここに置かせてもらって 後で家の人に取りにきてもらいなよ
今日は歩こう
カナエ:えっ 私一人で歩くよ! 遠野くんは先帰って
タカキ:ここまできれば近いから
それにちょっと...歩きたいんだ
(ヒグラシの鳴き声)
カナエ:遠野くん...
お願い...
タカキ:どうしたの!?
カナエ:ごめん なんでもないの
ごめんね...
タカキ:澄田...
(カナエ)
お願いだから...もう...
やさしくしないで....!
(カナエ)
必死に ただ閣雲に空に手を伸ばして
あんなに大きなカタマリを打ち上げて
気の遠くなるくらい むこうにある何か見つめて
遠野くんが他の人と 違って見える理由が
少しだけ分かった気がした
そして 同時に
遠野くんは私を見てなんて いないんだということに
私はハッキリと気づいた
だからその日 私の遠野くんに 何も言えなかった
遠野くんは優しいけれど
とても優しいけれど
でもー
遠野くんはいつも
私のずっとむこう... もっとずっと遠くの何かを見ている
私が遠野くんに望むことは きっと葉わない
それでも...
それでも私は遠野くんのことを
きっと明日も明後日もその先も
やっぱりどうしようもなく好きなんだと思う
遠野くんのことだけを想いながら
泣きながら 私は眼った
第二回 コスモナウト 終
第三回
(タカキ)
今 振り返れば
きっとあの人振り返ると強く感じた
(駅のアナウンス)
中央.総武最終電車 東京行きが到著します
アカリの母親:お正月でいればいいのに
アカリ:うん...でも色々準備もあるから
アカリの父親:そうだな 彼にもうまいもの作ってやれよ
アカリ:うん
アカリの母親:何かあったら電話するのよ アカリ
アカリ:大丈夫よ 來月には式で會うんだから そんなに心配しないで
寒いからもう戻りなよ
(アカリ)
ゆうべ 昔の夢を見た
私も彼も まだ子供だった
きっと 昨日見つけた手紙のせいだ
(會社)
上司:水野さん
水野:あ はい
上司:ミーテイングいいかな?
水野:はい
(タカキ)
ただ 生活をしているだけで 哀しみはそこここに積もる
日に幹したシーツにも 洗面所の歯ブラシにも
攜帯電話の履歴にも
(鍵が落ちる音)
(タカキ)
「あなたのことは今でも好きです」と
三年間付き合った女性はそうメールに書いていた
「でも私たちはきっと1000回もメールをやりとりして
多分 心は1センチくらいしか 近づけませんでした」 と
この數年間 とにかく前に進みたくて
屆かないものに手を觸れたくてそれが具體的に何を指すのかも
ほとんと脅迫的とも言えるようなその想いが
どこから湧いてくるのかも分からずに 僕はただ働き続け
気づけば日々弾力を失っていく心がひたすら辛かった
そしてある朝
かつてあれほどまでに真剣で切実だった思いが
綺麗に失われてることに僕は気づき
もう限界だと知ったとき
會社を辭めた
(タカキ)
昨日 夢を見た
(アカリ)
ずっと昔の夢
(タカキ)
その夢の中では 僕たちはまだ13歳で
(アカリ)
そこは 一面の雪に覆われた広い田園で
(タカキ)
人家の燈りは ずっと遠くにまばらに見えるだけで
(アカリ)
振り積もる新雪には 私たちの歩いてきた足跡しかなかった
そうやって
(タカキ)
いつかまた一緒に桜を見ることが出來ると
(アカリ)
私も彼も なんの迷いもなく
(タカキ)
そう 思っていた
終